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PLC更新時のトラブル事例とその対策

PLC更新時のトラブル事例とその対策

はじめに

長引く景気の低迷や公共工事の予算不足の中、国内のFA分野、PA分野においては制御機器の更新が遅れがちであり、三菱電機製PLCを例にとると、1980年代~90年代に発売されたMELSEC-AシリーズやQnAシリーズなどが未だに現役で稼働し続けている事例が多く見受けられます。

一般的に老朽化した機器では故障の発生確率が上がります。そして、もし更新となると、いままで使用していた機種は既に生産終了していて、後継機種への更新という形になることがほとんどです。一方で、2020年代に入ってからは世界的な半導体不足が顕在化し、PLCなどの機器は極端に長納期化しています。現在(2022年時点)では、故障が発生してから後継機種を発注しても、多くの場合で数ヵ月~1年程度という納期を提示され、長期間の設備停止を余儀なくされることになるというのが現実です。

参考

このような情勢を受けて、老朽化した機器を使い続けることのリスクを認識し、故障が発生する前に未然にPLCの更新を検討されるお客様が増えてきています。後継機種に更新する場合、内部のラダーソフトを後継機種に対応したものに変換しなければなりません。この変換作業自体は、PLCメーカーが開発しているツールソフトがあれば比較的簡単な操作で行うことができる場合が多いです。しかし、更新の前後で機器の仕様が若干ながら変わることにより、ソフト面、ハード面の要因から思わぬトラブルが発生することがあります。

今回は、当社が過去に手掛けたPLC更新案件の中で実際に起きたトラブル事例とその対策をご紹介します。

事例1:スキャンタイムの高速化による動作不具合

PLC機種 三菱電機MELSEC Aシリーズ→MELSEC Qシリーズ
設備 某市簡易浄水施設
トラブル概要 自動運転の工程が進まなくなった

PLC更新後、自動運転で進んでいくはずの工程が進まなくなるトラブルが発生しました。調査の結果、工程のある段階で行うべきハードウェアタイマのリセットがうまく行われていないことが原因であると判明しました。このハードウェアタイマにはリセット用の接点があり、本来であればPLCから出力されるリセット信号を受けてリセットされるべきものでした。

この事象は、PLCのスキャンタイムが短くなったことに起因していると分かりました。PLCは予め記録されているプログラムを1秒間に数十~数百回のペースで繰り返し実行しています。1回1回のプログラムの実行の度に、入力を新たに取り込み、出力を更新する仕組みです。スキャンタイムとは、この1回のプログラムの実行にかかる時間(演算周期)のことをいいます。更新後の機種では、CPUの高性能化に伴いスキャンタイムが短くなっていました。

既設のプログラムでは、ハードウェアタイマに対して出力するリセット信号は1回のスキャンタイム分の時間しか出力されない設計でした。更新前のPLCではスキャンタイムは数十ms程度であったので、ハードウェアタイマの側で検出するのに十分な時間だけリセット信号の出力が継続していました。しかし、PLC更新でスキャンタイムが数ms程度まで短くなったことで、リセット信号の出力継続時間が短くなりました。これにより、ハードウェアタイマの側でリセット信号を検出できなくなった次第です。

対応として、コンスタントスキャンといわれる機能を利用しました。コンスタントスキャンとは、PLCのスキャンタイムを設定した値に固定し、プログラムの実行が終わっても設定した時間が経過するまではプログラムを繰り返し実行することや入出力をリフレッシュすることをしないで待つ機能です。この機能を使って、スキャンタイムをハードウェアタイマでの信号検出にとって十分な長さの値に設定しました。対応後に改めて試運転を実施し、自動運転のトラブルが解消したことをご確認頂きました。

スキャンタイムの高速化はPLCとしては性能向上でありますが、他の機器との取り合いによって意外な問題が発生することがあると学んだ一件です。

事例2:デジタル出力ユニットのコモン仕様相違による混触の発生

PLC機種 三菱電機MELSEC AnSシリーズ→MELSEC Qシリーズ
設備 某村浄水場膜ろ過設備
トラブル概要 混触が発生しブレーカーがトリップした

PLCを更新して電源を投入したところ、直後に漏電ブレーカーがトリップしました。調査の結果、デジタル出力ユニットのコモン仕様が変わったことで、更新後のハード回路で混触が発生したことが原因と判明しました。

図1:混触が発生した回路の模式図

混触が発生したのは、AnSシリーズのA1SY10をQシリーズのQY10に更新した箇所です。更新前後の模式図を図1に示します。A1SY10、QY10とも16点の接点を持つデジタル出力ユニットです。三菱電機が販売している変換アダプタを使うと、配線ごとA1SY10の端子台を抜いて変換アダプタに挿し、変換アダプタをQY10に挿すことにより、配線自体の繋ぎ替えはしないままで簡単に更新が可能です。

しかし、A1SY10は前半の8点と後半の8点の回路でそれぞれ別のコモン線を接続しますが、QY10では16点全てで1本の共通のコモン線を使う仕様に変わっていました。その為、2本のコモン線をそれぞれ接続した端子は、変換アダプタの内部で短絡されていました。これにより、通電した瞬間に2本のコモン線が混触し、漏電ブレーカーがトリップした次第です。

今回の設備では16点の出力のうちの8点はリレーを駆動していますが、残りの8点は電磁弁を駆動しており、両者を共通の電源ラインとすることはできません。そこで、電磁弁を駆動させる為の8点については1度リレーで出力を受け、そのリレーを使って電磁弁を駆動させるように回路を改造することとしました。そうすれば、QY10から直接駆動するのは16点のリレーだけとなり、リレー駆動用のコモン線1本で足りることとなります。

予定外のハード改造作業が必要になった為、最初に更新に伺った当日はPLC更新は延期とさせて頂き、取り急ぎ設備が今まで通りに運転できるように更新前の古いPLCに戻す応急処置のみ行いました。後日改めてお伺いし、盤内の空きスペースにDINレールを取り付けて電磁弁駆動用のリレーを新設して配線の改造作業を行い、それから当初予定していたPLC更新を実施しました。作業後に試運転を実施し、通常の運転が問題なくできることをご確認頂きました。

PLCメーカーが公式に提供しているリニューアルツールを使えば難なく更新作業ができると思い込んでしまいがちですが、リニューアルツールがあるからといってハード面も含めた電気的な仕様を十分検討しないで進めると、予期せぬしっぺ返しがあると思い知らされた一件です。

おわりに

世界的な半導体不足による機器の長納期化が国内産業にも大きな影響を及ぼしている昨今において、転ばぬ先の杖としてのPLC更新はますます重要性を増していると考えます。その一方で、PLC更新の際には今回ご紹介したような思わぬトラブルも起こりえます。

当社ではPLC更新案件を多数手掛けています。今回ご紹介したようなトラブル事例を含め、数多くのノウハウが蓄積されている為、なるべくリスクの少ないPLC更新を提案可能です。また、万一のトラブル発生時には、ソフト面、ハード面の両方の問題を解決できるワンストップサービスで責任を持って対応いたします。今回のご紹介事例は2つとも三菱電機製のPLCでしたが、それ以外にも各社のPLCに対応しており、事例を下記リンクでご紹介しております。

PLC更新の際はぜひ当社にご用命ください。

参考

 

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